広島大学ヨット部
創部70周年 記念事業
日 程
2019年8月11日(日) ~ 8月12日(月・祝)
場 所
広島市文化交流会館・広島観音マリーナ
日 程
2019年8月11日(日) ~
8月12日(月・祝)
場 所
広島市文化交流会館・
広島観音マリーナ
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子どもと歩く

前田 博志
広島大学体育会ヨット部 第39代主将
前田 博志

今回、「子どもと歩く」というお題をいただいたので、それについて書きたいと思います。

今、長女の月里とOptimist級(OP級)の世界選手権に向かう飛行機の中にいます。中学3年生までが乗ることのできるOP級の世界選手権は今年、アンティグア・バーブーダというカリブ海の小さな島国で行われます。長男の海陽の海外遠征に初めて同行したのが5年前。今年は月里が中学3年生なので、子どもの海外遠征に同行するのは最後になりそうです。

私は1987年、大学に入学して初めてヨットに出合い、諸先輩方からヨットについて教わりました。ヨット部では、乗り方・テクニックなど海上での技術を教わるとともに、艇やセールを大切にすること、時間厳守・規律など、陸上でも多くのことを学びました。自然が相手のため、海が荒れて遭難しそうになることもありました。その時に仲間と協力して助け合うことの重要さを身をもって知りました。ヨット以外でも全日本インカレ広島開催、欧陽菲菲のコンサート興行などたくさんのことを経験させていただきました。

これらは現役選手だけで運営できるものではなく、いつも多くのOBの方々に助けていただきました。OBとのつながりが強いクラブというのが、私たちの誇りでした。その後、大学を卒業してマツダ株式会社に就職し、1994年のアジア大会(広島)に大学の後輩である後藤貴之さんとエンタープライズ級で出場し、金メダルを獲得しました。海外遠征・艇準備・練習環境の整備などにも多くの方々からサポートをいただき、その結果が金メダルにつながったと思っています。

2011年3月、4年間赴任していたアメリカから帰国した際、広島セーリングスクールのOP級体験教室に子ども2人を誘っていただきました。長男海陽がOP級に乗った途端「来週も乗りたい!」ということで中断していた私のヨット生活が再開しました。子どもたちのサポートは、自分が現役選手の時より過酷であるということがすぐ分かりました。毎週土日はモーターボートで朝から夕方まで海に出て指導します。多いときは月に2回、国内各地へ遠征に行きます。例えば、金曜日の夜に仕事が終わり車を運転して江の島まで行き、土日に海へ一緒に出てレースサポート後、日曜日の夜にはまた車で広島まで戻り、月曜日朝から仕事に向かいます。海外遠征にも毎年同行しました。そんな過酷な競技生活を9年間も続けることができたのも広島や全国各地の仲間のおかげでした。その結果、海陽は昨年のアジア大会(インドネシア)にレーザ4.7級で出場、親子でアジア大会を経験するという夢をかなえることができました。

子どもたちを指導する中で、今までの自分の経験では得られなかったことも学びました。ヨットの経験のないところからスタートするのは、大学から始めた私たちと同じですが、小さい子どもは力も弱く、セーリング理論が理解できないので、どのように理解させるか、技術を習得させるか毎週が試行錯誤でした。月里は小学1年生から始めたのですが、セールが引けない、体重がなく艇が起きないという状態でした。でも今では、想像もしなかったロールタックやフリー帆走などのセーリング技術を身につけており、私が彼女から学ぶこともたくさんあります。自分がヨットに乗っていて気付けなかったことも、セーリングを客観的に見ることで理解できました。艇の動きと理論が頭の中で結びつき、自分が現役の時より格段にセーリングの知識が増えました。

いわゆる「ヨットが上手な選手」には、共通点があります。謙虚、いつも一生懸命練習に取り組む、仲間を大切にする、艇やセールを大事に扱う、コーチや親に感謝をする、他のチームの親・コーチとも適切なコミュニケーションを取るなど。ヨットの技量だけが上達するのではなく、人間としての成長が伴って初めてセーリング技術が上がる。最近になって、やっとそのことが自分の中で明確になり、意識してそのような観点から子どもたちを指導するようになりました。

OPを指導する上で、私のベースにあるのはすべて広大ヨット部で学んだことです。物を大切にすること、人を助け助けられ成長していくこと、人間性を高めることが大事で、そのことを広大ヨット部からマツダヨット部、そしてOPの指導で勉強させていただいたように思います。これからは機会があれば広大ヨット部にも関わり、多くの後輩たちに私の経験を伝えていくことで恩返しをしていきたいと思っています。